ラインアンプの研究

<試作アンプ方針>

 CDプレーヤとパワーアンプを直接接続する際に問題となる次ぎの3点を解決する為のラインアンプを試作します。

  ・ゲインが不足する。

  ・アッテネータが無い、またはCD内蔵のでは音質面で不安。600Ωのアッテネータを使いたい。

  ・パワーアンプに600Ω入力のインプットトランスを使用しても十分駆動できるようにしたい。

まずゲインですがあまり大きいとアッテネータで絞る量が大きくなるので6dbを目標とします。次ぎにアッテネータは600Ωの物ですといい物が多くありますのでこれが使えるように設計します。出力側に600Ωのアッテネータを入れるようにすれば、三番目の600Ω出力の目標も達成できます。

 以上によりCDからの入力をハイインピーダンスで受け、増幅してトランスを介して600Ωに変換しアッテネータを通して出力する構成とします。使用できるトランスをさがすと600:600のリピーティングトランスと20K:600等の出力トランスがあります。今回は両方のタイプのラインアンプを試作してみます。以下に使用する主要部品を示します。

リピーティングトランス WE111C 出力トランス JS139
we111c.jpg (29235 バイト) js139.jpg (23084 バイト)
カップリングコンデンサー 2.2μ WE_P-42E337 小型電源トランス 98193
wecap.jpg (34420 バイト) t98193.jpg (29531 バイト)

リピーティングトランスの111Cは大型で、低インピーダンスですのでそれなりの電流を流す為電源部にある程度の規模が必要です。そこでリピーティングトランス使用のほうは大きさのの制約を設けずに大型に、出力トランス使用の方は逆に小型化を追求してみます。

<リピーティングトランス使用電圧増幅段>

 リピーティングトランスは1:1なのでゲインは6dbあれば良い代わりに600Ωの低インピーダンスを駆動する必要があります。そこで増幅段にカソードフォロワーをつけるのが自然に考え付きます。たとえローμの三極管でもゲインは6dbをオーバーするので負帰還をかけてゲインを調整します。トランスの個性を生かす為2次側から負帰還を掛けたくないのと、平衡出力の場合2次側はアースから分離されるので負帰還が掛けられないという2つの理由がらカソードフォロワーのバッファー付きP−G帰還回路としました。この回路構成ではμが大きく、rpが小さいつまりgmが大きい双三極管が適当なので6DJ8を使用します。ちなみに12AX7=1.6、12AT7=5.5、12AU7=2.2、6DJ8=12.5[ミリモー]です。P−G帰還の場合、帰還抵抗(120K)と入力−グリッド間抵抗(47k)の抵抗比でだいたいの増幅率が決まります。(真空管の増幅率無限大で出力インピーダンス零ならぴったり抵抗比) 通常USピンのラインは47kで規定されていることが多いので、入力−グリッド間抵抗は47kに設定。2倍をやや超える抵抗値ということで帰還抵抗は120kとしました。動作点は平均プレート特性図を見てリニアティーの良さそうな所になるよう回路図の通り設定しました。6DJ8はカスケード接続やSRPPで使うことを想定して第2ユニットの方が、カソード−ヒーター間の耐圧が高く規定されているので第2ユニットをカソードフォロワーとして使います。

<出力トランス使用電圧増幅段>

 今回使用する出力トランスは21.6k:600なので、SQR(21600/600)=6倍の増幅をしてやっとゲイン0dbになります。従って12倍の増幅をすれば目標の6dbのゲインを得ることができます。こちらのアンプは小型に作ることにしているので、電源部が小型のため+Bの電流をすくなくする必要があります。そこで12AX7か12AT7かの選択になりますがgmが大きい12AT7を選びます。12AT7では21.6kの負荷は重いのでこちらもP−G帰還を掛け歪を低減しています。帰還の抵抗比は12倍にしていますが実際は8倍程度のゲインしかありません。動作点は実装状態で歪が小さくなるように設定しています。

 

・リピーティングトランス使用回路図          ・出力トランス使用回路図

(注:当店で回路図中のすべての部品を販売しているわけではありません。本回路図は性能、音質を保証するものではありません。)

 

<トランス2次側>

 どちらのタイプも2次側は同じで良いのですが、出力トランス使用の方は小型に作る方針はらアンバランスのみとしました。使用するキーとなるパーツはアッテネーターです。2連:単連、T型:POT型、減衰ステップ数など選択要素があるので好みに従い選択してください。注意点はPOT型(普通のボリュームと同じ型)を使用すると終端抵抗が不要ですが、パワーアンプに600:120kなどのインプットトランスを使うとインピーダンスマッチングが出来なくなります。試作機では両方共に東京光音のT50DSという単連、T型、2dbステップのものを使用しています。

 

 


<組み立て>

 リピーティングトランス使用の試作機は摂津金属工業(IDEAL)のFE−2000という180W-300D-140Hの大きさのケースに組みこみ、出力トランス使用の試作機は100W-150D-50Hの塗装済みアルミシャーシに組みこみました。写真中で使用しているつまみは同じ物ですので、両試作機の大きさの違いを把握してください。シールド線を使用しなくても良いよう真空管は入力端子の近くに配置し最短で配線します。リピーティングトランス使用試作機の場合、トランス2次側600Ωのラインをかなり引き回さないといけないので電磁結合によるノイズの混入に注意してください。試作機では正相と逆相をより合わせ電磁結合がキャンセルされるよう配線しています。111CのG端子はネジ止めにより本体シャーシに接続されているので特に配線していません。

 

リピーティングトランス使用試作機 出力トランス使用試作機
line111f.jpg (65528 バイト) line1.jpg (31111 バイト)
line111b.jpg (69133 バイト) line1b.jpg (41679 バイト)
line111m.jpg (69500 バイト)

 


試作アンプの特性

リピーティングトランス使用試作アンプ 出力トランス使用試作アンプ
wpeD.jpg (16475 バイト) wpeB.jpg (16526 バイト)
wpeE.jpg (15602 バイト) wpeC.jpg (14886 バイト)
残留ノイズ R:0.36,L:0.30 [mV,FLAT,入力オープン,ATT_max] 残留ノイズ R:0.08,L:0.04 [mV,FLAT,入力オープン,ATT_max]
利得 5db 利得 2.7db

リピーティングトランス使用アンプの周波数特性で低域が30Hzから減衰を始めるのは2.2+2.2μのカップリングコンデンサーの容量の影響です。使用する再生装置の特性に合わせて調整してください。さらに同アンプで雑音歪率特性が出力電圧が小さくなるのに従い増加傾向にあるのは残留ノイズの影響です。残留ノイズがこの程度ならあまり問題とならなので現状としました。また今回の構成ではATTを絞っても増幅部分の動作レベルが小さくならなので、予想される最大レベル(2V×利得)まで雑音歪率が小さいことが望まれます。


<まとめ>

 リピーティングトランス使用アンプはほぼ目標使用を満足しましたが、出力トランス使用アンプはゲインの点で不足していますし出力3v付近の歪ももう少し減らしたいところです。ただし試聴では問題無いレベルです。両アンプ共に当店で試聴できますので是非御来店下さい。

 リピーティングトランス使用アンプの回路図中に保護ダイオードが入っています。これは電源ONからヒーターが暖まる間、カソードフォロワー部のグリッド−カソード間に+Bの電圧が掛かるのを防止する為です。ないとヒーターが暖まる間、グリッド−カソード間で放電することがあるようです。放電しない球もあるよですし、放電してもただちに球が劣化することもないようですがかなり気持ちわるいので放電するようでしたら追加してください。品種はスイッチング用のシリコンダイオードです。耐圧は球のバイアス分あればよいのでたいていの物が使えるはずです。

(2000.3.31)